ドリームコンサート2018 イベントレポート
学生街であり、楽器の街でもある御茶ノ水。いつも音楽と若さにあふれたこの街が、毎年ゴールデンウィークには、いつも以上に若さと音楽であふれかえる。その理由は、1937年創業の老舗「下倉楽器」が毎年この時期に、明治大学を舞台に開催している「シモクラ・ドリーム・コンサート2018」(以下SDC)です。
20年以上の歴史を持つSDCを評して「まるでもうひとつのラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日。同時期に東京駅付近で開催)だ」という人もいるくらい、すでに御茶ノ水の名物イベントになっているのだが、今年のSDCはいつも以上に初日からヒートアップ。開演前からすでに、いつも以上の会場。
2018/5/3(木)CLASH,海藻姉妹,THE JOYFUL BRASS
幕開けの「CLASH」は、実は取材班も見せていただくのは初めて。クラリネットのCLをうまくあしらったチーム名はかっこいいけど、いったいどんなことやるんだろう?そんな、期待を持つ我々の前に、まずカウントダウンの映像。いったいなにが始まるの?!これまでのSDCにはなかった斬新な演出に、リバティホールが一気に盛り上がります。
クラリネット4本だけの演奏で、これだけ客席を沸かせるとは!?これまでにも、動きながら演奏するチームはあったけれど、映像を駆使してここまでかっこよく魅せたCLASH。
クラリネットの世界が、確実に変わりつつあるのを感じさせてくれました。当日の演奏曲目は以下の通り。
The first motion/Crash! Crash!/LOVE/初恋サイダー/Seasons of love/enthrall
これまでにないアイディアとパワーにあふれたCLASHに、待ち受けていた大観衆も大満足。
「超前衛な女たち」というキャッチコピーそのもので、これまでクラリネットという楽器に対して抱いていた先入観が見事にクラッシュしちゃいました☆
続く初日第二幕は、「海藻姉妹」。客席後方から登場して、まず観客のハートをわしづかみ!
「わかめ」(サックス:山崎憂佳・やまざき ゆうか)「こんぶ」(サックス:竹内理恵・たけうち りえ)「めかぶ」(鍵盤楽器:鳥羽山沙紀・とばやま さき)という三人は、東京藝術大学在学当時からその才能に注目されていた気鋭の若きアーティスト。
CLASHと同じ映像を駆使したステージ。でもこちらは各曲のイメージに合わせたかわいいアニメーションが主体。演奏曲目は、谷中ブギウギ/リンゴの唄/キャンディーガール/水槽舞踏会/ユーラシア超特急/さんさキッド/リンゴの唄(アンコール)
まるで海の中にいるようなライティングのなかで、海藻姉妹たちが揺れています…2015年9月に初のライブDVD+CD「海底演奏会実況盤」をOutOneDiscより発売し、大好評を博しています。
このタイプのアーティストは、これまでのSDCには確かにいなかった!彼女たちのこれからの活躍が楽しみです。今回のSDCで初めて彼女たちと会えた我々は、ラッキーでした!
初日最後は、おなじみ「ザ・ジョイフル・ブラス」のみなさん。苅込博之・高井天音(トロンボーン)、牧原正洋・二井田ひとみ(トランペット)、家中勉(チューバ)、荒張正之(ドラムス)の5人組は、金管アンサンブルというより、ちっちゃなビッグバンド。今年はソロフィーチャー特集!
ちっちゃなビッグバンドみたいなサウンドがするそのわけは…メンバー全員が、ジャズの現場でたたき上げの実力者ばかりだから。ヴェテランのトランペッター牧原正洋さんが、まずフリューゲルホーンを手に、しっとりと「クロス・トゥ・ユー」で会場をひきつけます。
続く二曲目は、チャーリー・パーカーの難曲「アンソロポロジー」。ガーシュイン「I Got Ryhthm」に基づく、いわゆる「Rhythm チェンジ」と呼ばれる有名なコード進行に基づく楽曲のひとつで、ビバップ特有の、痙攣するような高速パッセージが魅力…ですが、トロンボーンにははっきりいって不向き。
しかし、この難曲を高井天音さんは見事に吹きこなし、すばらしいアドリブで聴衆をひきつけます。
山下洋輔賞受賞の実力、さすがです。
ジョイフル・ブラスは達人の集まり。なかでもチューバの家中勉さんは、チューバによるベースライン演奏では日本一!という定評をもつ異能の人。さらに、その超絶技巧で会場を圧倒します。今回は重音奏法なども駆使して、モンティ「チャルダーシュ」を見事に激奏!
いまもっとも注目されている女性トランペット奏者、二井田ひとみさん。もっとも尊敬するハリー・ジェイムスのメドレー(スリーピーラグーン、チリビリビン)でそのすばらしい実力を惜しげもなく発揮。
「タイガーラグ」の部分では、高井天音さんがトラの衣装に着替えて登場!スライドを足で操作する荒業を披露!「ディキシーランドジャズ・メドレー」では、苅込さん&高井さんが美声を披露して拍手喝采を得る場面も。ちなみに、苅込さんのお嬢様は、藤原歌劇団で活躍中。
2018/5/4(金)Pops Clarinet,Dream Clarinet Ensemble
二日目の5月4日は、Micinaさん率いる「Pops Clarinet」。この日のために結成されたスペシャルチームで、クラリネットMicinaさんのほか、Keyboard伊藤辰哉、Drums岡部量平、Guitar那須寛史、Bass白戸佑輔の各氏という豪華な顔ぶれ。
ドラムスは、以前SDCには「大筒小筒」で登場して注目を浴びた岡部量平さん。映像とリンクしたかっこいいステージ。キーボードは伊藤辰哉さん。
ベルを外し、下管を外し、最後はマウスピースだけで…珍曲「だんだん小さく」からヒントを得た手法で、アンコールの「熊ん蜂の飛行」を披露したMicinaさん。
ほかの楽曲に使用した例は珍しい!素晴らしいアイディア、さすがです。
クラリネットDay、締めくくるのはこの日のために結成された「ドリーム・クラリネット・アンサンブル」。
出演は勝山大舗、太田友香、佐藤拓馬、須東裕基、照沼夢輝、塚本啓理、平田彩圭、原浩介の各氏。
東京佼成ウインドオーケストラが誇る低音クラのオーソリティ、原浩介さん。サン=サーンス「動物の謝肉祭」より「象」を披露。珍しいコントラバスクラの独奏に、注目が集まりました。
低音クラを従え、高音クラが妙技を披露。演奏曲目は下記の通り。
ギスガンドリー(F&M ジャンジャン)動物の謝肉祭より「象」(サン=サーンス)「ブエノスアイレスの四季」より「春」(ピアソラ)ルーマニア民族舞曲(バルトーク)バレエ組曲「シンデレラ」Op.87より(プロコフィエフ)。
「ブエノスアイレスの四季」ではバスクラやバセットホルン、そしてエスクラリネットが大活躍。
「ルーマニア民族舞曲」は、メンバーたちのコンクールでの思い出が込められた熱い演奏が楽しめました。
「シンデレラ」は東京都のアンサンブルコンテストで高校生が演奏しているのを聴き、感銘を受け今回のプログラムに選んだそうです。「高校生は半年以上練習しますが、我々はプロフェッショナルなので3日のリハーサルで仕上げました」と、自分でハードルを上げた勝山さん。その言葉を裏切らないハイクオリティな演奏に、一同脱帽!
リーダー勝山さんに呼ばれて、Micinaさんがさっそうと登場。勝山さんとMicinaさんは東京音楽大学時代4年生(勝山)と1年生(Micina)
この様な舞台で共演できるのもSDCならではのキャスティングでしょう。
そしてMicinaさん作曲「ガラスの海と都市の情景」
アンサンブルコンテストでも大人気の曲を特別アレンジでコラボレーション。
クラリネットは幅広い音域をもっていますが、ポップスからクラシックまで、ジャンルを超えて幅広い表現力をもっていることを証明してくれたステージでした。
そして最後は、選定楽器お渡し会。たったいま演奏を終えたばかりのアーティストとともに、記念撮影できるのもSDCならではの楽しいイベント。
2018/5/5(土)CHE,Dream Brass,Trouvère Quartet
SDC最終日は、舞台を明治大学アカデミーホールに移しての展開。今日は、SDCのためだけに組まれた「ドリーム・ブラスアンサンブル」、そしてSDCではすっかりおなじみの「トルヴェール・クヮルテット」の二本立て!
オープニングを飾ってくれたのは「ちっちゃいホルンアンサンブル(略称「CHE=チェ」)のみなさん。
SDCには3回目の登場。
年を追うごとに完成度が高まっています。「おもちゃ」みたいに思われがちなポケットホルン(調性はB♭。コルネットやトランペットと同じ長さで、マウスピースはフレンチホルンを使用)の、意外に本格的?な表現力を堪能させてくれました。特に冒頭のオリジナル・ファンファーレが大好評!
幕開けは、SDCのために特別に編成された、文字通り夢の集団「ドリーム・ブラスアンサンブル」。
読売日本交響楽団首席トランペット奏者、辻本憲一さんは、演奏だけではなく、アレンジまで担当!
SDCの司会は、辻本さんにとっては読売日本交響楽団の相方である尹千浩(ユン・チョノ)さん。読売日本交響楽団首席ホルン奏者、日橋辰朗さんは、いまもっとも注目を集めている実力派。熊井優さんは、神奈川フィルハーモニー管弦楽団で活躍するホルン奏者。葛西修平さんは、今回もっとも若いメンバー。読売日本交響楽団トロンボーン奏者として活躍する俊英です。
青木昴(こう)さんは、東京都交響楽団トロンボーン奏者。今回は青木さん、葛西さんという2トロンボーン体制。ユーフォニアムは、「侍ブラス」でも活躍する名手・斎藤充さん。実はトロンボーンとの二刀流でもありますが、今回はその場面はナシ。世界的名手、セルジオ・カロリーノとのデュオアルバムも大評判。読売日本交響楽団チューバ奏者、次田心平さんが低音を支えます。
辻本さんは、ピッコロやE♭管を駆使して、きらびやかな高音域でアンサンブルの表現力を飛躍的に拡大。
自らアレンジしたモーツァルト「魔笛序曲」で、特にその効果が発揮されていました。
ガブリエリの「ピアノとフォルテのソナタ」は、音楽史上初めてp(ピアノ)とf(フォルテ)という強弱記号を記した作品。金管アンサンブルの聖典ともいえるフィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルを彷彿とさせる、絢爛豪華かつ正統派のプログラムが続きます。「これぞ金管アンサンブル!」と、誰もが圧倒される表現力。
単に「聞きやすい」「派手でかっこいい」安易な楽曲が選択されていないところも大好評。
ちょっと肩の力を抜いた作品も、品の良い選曲センスが光ります。ポップステイストが香るジャーマン・ブラスの総帥、エンリケ・クレスポ作品「TWO WINGS」では、読売日本交響楽団のふたりが息の合ったフリューゲルホーンのデュオを披露。
ガーシュインの有名な「3つのプレリュード」も、辻本さんのオリジナルアレンジ。アメリカが生んだ20世紀最高の芸術「ジャズ」と、クラシックが融合した聞き応えある仕上がりに、万雷の拍手が!
そして、SDC3デイズのオオトリを飾るのは恒例の「トルヴェール・クヮルテット」。
須川展也さんは、現在とある極秘プロジェクトを進行中…といっても、もう公開されているからいいか(笑)
本多俊之さんアレンジの「サマータイム」収録の最新アルバムは、おそらく今年のサックス界を震撼させるはず。
独特の個性的な表現力でトルヴェール・サウンドの中核を担う彦坂眞一郎さん。指導力の高さでも定評があります。師匠である故・新井靖志さんの衣鉢を継ぐ二代目テナー神保佳祐さん。トルヴェールの中低音としての安定した存在感が素晴らしい。スタイリッシュなテナーが演奏を引き締めてくれます。
田中靖人さん、東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスター、としての活躍は、もうご存知ですよね。こちらではバリトンでサックスの吟遊詩人「トルヴェール(もともと中世欧州の「吟遊詩人」を意味する言葉)」を逞しき低音で支えます。
そして「トルヴェール」にとってなくてはならないピアニスト、小柳美奈子さん。
この日は「モーツァルトはなべてこうしたもの(略称「モツなべ」)」で、鍵盤リコーダー「アルプス」の妙技?(わずか10音!)を披露。長生淳さんアレンジのこの作品は久々の再演ということでしたが、圧倒的な完成度で満場の聴衆を魅了。「フィガロの結婚」から始まり、「魔笛」があって、シンフォニー41番「ジュピター」も見え隠れして…長生さんの天才的アレンジマジックで、たくさんのモーツァルトが登場。
締めくくりは恒例、選定楽器お渡し会。今日は金管楽器とサックス。ドリーム・ブラス、そしてトルヴェールとの記念撮影は、これからの楽器生活に大きな励みとなるはず。
大盛況のうちに幕を閉じたSDC3デイズ。ご来場いただいたお客様、熱演いただいたアーティストの
すべての方に「感動をありがとう!」と、心からの感謝を捧げたい取材班でした☆