5/5 ドリームコンサート

2日目が毛色の異なる団体での「金管DAY」だったのに対し、最終日はクラリネットとサクソフォン(サックス)の「木管DAY」。

あ、サックスは金属で出来てるけど木管、これはもう常識ですね。

ところでこの最終日、これまでの2日と比べてぐっと幅広い客層になっていたようです。

学校で管楽器をされている中・高校生の皆さんが目立ったのはもちろんなのですが、親子連れもカップルも、そして固定客と見受けられる「お一人さま」もちらほら。

早々にステージ前の最前列付近は満席となって、開演前から期待の高さが伝わってきます。


Dream Clarinet Ensemble

そんな中、まず登場した「ドリーム・クラリネット・アンサンブル」は昨日の「ドリーム・ブラス」同様、
この日のためだけに集まった4人でのアンサンブルです。

MCもしてくれた中村めぐみさんが「私にとっても夢のようなアンサンブル」というように、こういった機会でもなければ揃うことのない、
日本の誇るトップ奏者たちなのです。

冒頭のアルベニス《セビリア》(スペイン組曲より)でスペインの異国情緒をしっとりと伝えた後、中村さんが他の3人に「クラリネットを始めたきっかけ」をおもむろにインタビューを開始します。

それぞれ、

「形が好きで」(2nd=野田さん)、

「他人に勧められた」(3rd=西川さん)、

「クラリネット・アンサンブルをやりたくてトロンボーンから転向」(4th&バス=伊藤さん)と、

クラリネットを始めるきっかけはさまざま。

大切なことは、「クラリネットが好き」ということ。


次の曲《イン・ザ・ムード》が映画『スウィングガールズ』で使われていて、それがきっかけでクラリネットを始めた人もいるに違いない、
と話し、このポピュラーな曲で「少しでも皆さんが距離を近く感じてくれたら嬉しい」とクラリネットの美しいサウンドを語りかけます。

続いては、かの「パリ・ギャルド」の名指揮者としても知られたロジェ・ブートリー作曲の《フェスティバル》より第1&4曲。

「この曲を演奏すると、ブートリーさんが伝えたかったに違いない、大勢のクラリネット奏者がひとつになる大切さをいつも感じる」(中村さん)という言葉通り、技巧的なユニゾンが随所でピタリと揃うたびに、トップ奏者の底力が実感されます。

それでもやはり難しい曲なのでしょう、終わってからの「がんばりました」という中村さんの一言も印象的でした。

次の《3つのタンゴ》(コントラバヘアンド/ラ・ミスマ・ペナ/アディオス・ノニーノ)タンゴとクラシック、ジャズを融合させたピアソラの作品。

ピアソラといえばバンドネオンですが、クラリネットの柔らかい音色はバンドネオンとよく似ていて、全く違和感のないピアソラでした。

最後の曲、《3つのラテンダンス》(ヒケティック)は、このところアンサンブル・コンテストで大流行りしている曲。

しかし「コンテストではカットされがちな部分にこそ良さがあると思う」「いろんなことが起こるので聴いてほしい」(中村さん)と、気合の入った選曲であることをうかがわせます。


確かにアクロバティックな噛み合わせ、独特なリズムと、めくるめく展開はスリル充分、曲が終わるとどよめきに似た拍手が起こりました。

そしてアンコールはピアソラの《コントラバへアンド》を再び。

ここでは同じ曲を同じようには絶対に演奏しないプロの真骨頂が発揮され、さらに自由なピアソラが聴けました。

Dream Clarinet Ensemble 演奏ハイライトMOVIE


Dream Clarinet Ensemble

プロフィール

中村 めぐみ Megumi NAKAMURA 〔Clarinet〕

東京藝術大学卒業。同時にシエナウィンドオーケストラに入団(創立メンバー)。
ほかに、オーケストラ、室内楽、ミュージカルオーケストラ、スタジオワーク、ソリストなどで活動を続ける。
東京クラリネットアンサンブル、東京クラリネットフィルハーモニー団員として、ライブ、CDレコーディング等に参加。シエナでは、ライブ、CDレコーディングなどで、多数コンサートマスターを務める。現在シエナウィンドオーケストラ、クラリネット奏者。洗足学園音楽大学、桜美林大学、尚美ミュージックカレッジ、非常勤講師。

伊藤 圭 Kei ITO 〔Clarinet〕

1977年宮城県出身。
2001年東京藝術大学卒業。
2004年第6回日本クラリネットコンクール第1位。
2006年第74回日本音楽コンクール入選。
2012年東京オペラシティリサイタルシリーズ「B→C バッハからコンテンポラリーへ」出演。尾高惇忠「幻想曲」初演。
2014年東京藝大「創造の森」において「尹 伊桑(ユン・イサン)クラリネット協奏曲」のソリストを務める。
これまでにクラリネットを千石 進、日比野 裕幸、野田 祐介、山本 正治、三界 秀実、村井 祐児の各氏に師事。
現在、NHK交響楽団首席クラリネット奏者。
愛知県立藝術大学講師、東京藝術大学特任准教授。

野田 祐介 Yusuke NODA 〔Clarinet〕

1964年大分県別府市生まれ。千葉県立船橋高等学校オーケストラ部で音楽に目覚め、16歳よりクラリネットを横川晴児氏に師事。高校卒業後フランスに留学、パリ市立第10区音楽院、ヴェルサイユ国立地方音楽院、パリ国立高等音楽院をそれぞれ一等賞を得て卒業。C.ドゥシュルモン、A.ブータール、G.ドゥプリュの各氏に師事。室内楽をピエール=イヴ・アルトー氏に師事。在学中、メシアン作曲「時の終わりのための四重奏曲」を作曲者本人の前で演奏、好評を得る。
1988年に帰国、フリー奏者としてオーケストラ、室内楽、ソロ、放送音楽等にわたり活躍。2003年群馬交響楽団に第一奏者として入団、現在に至る。
第6回日本管打楽器コンクール・クラリネット部門入選、第3回日本クラリネットコンクール第3位入賞。プラハ放送交響楽団、ニューフィルハーモニー千葉、群馬交響楽団と協奏曲を共演。NHK-FMリサイタル出演。草津国際音楽祭、宮崎国際音楽祭等に出演。プロオーケストラ奏者を集めたなにわ《オーケストラル》ウィンズにてE♭クラリネット担当。群響団員による室内楽《Ensemble G》主宰。クラリネットを中心とした木管アンサンブル《Class-K》主宰。第78回及び第81回日本音楽コンクール・クラリネット部門審査員。第4回秋吉台音楽コンクール・クラリネット部門審査員。桐朋学園大学音楽学部、昭和音楽大学で後進の指導にもあたる。

西川 智也 Tomoya NISHIKAWA 〔Clarinet〕

大阪教育大学教育学部教養学科卒業。東京芸術大学大学院音楽研究科修士課程修了。NHK交響楽団「N響アカデミー」修了。これまでにクラリネットを和田尚裕、青山秀直、山本正治の各氏に師事したほか、国内外の著名な演奏家の諸氏に学ぶ。第23回宝塚ベガコンクール木管部門第2位、第9回東京音楽コンクール木管部門第1位、第24回日本木管コンクール第1位。日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団と協奏曲を共演。小澤征爾音楽塾、木曽音楽祭などに参加。現在、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラを中心に幅広く活動している。


トルヴェール・クヮルテット Trouvère Quartet

さて、この「SHIMOKURA ドリーム・コンサート」には文句なし最多の参加となる
トルヴェール・クヮルテットが今回も最後の最後、締めの登場です。

結成してもう30年近くになる世界的なアンサンブルですから細かな説明は不要と思われますが、
「歳はとったけど元気さは衰えない!」(須川展也さん)という旺盛な意欲は結成当時のまま。
今回のステージも、まだまだ元気が有り余っているかのようでした。

最初の曲の作曲家、F.ジャンジャンは一般にはほぼ無名ですが、《サクソフォン四重奏曲》はかなり以前からこの編成の定番曲として演奏会にもよくかけられ、「最近は中学生もよく演奏していると聞いている」と須川さんもいう、親しみやすい曲です。

それにしても〈田園の楽しみ〉〈懐かしい風景〉〈蝶々〉〈広場の音楽会〉という4つの楽章

これはもう誰が聴いても間違いなく世界最高峰のサクソフォーン・アンサンブルであるということがすぐに実感される、とても素晴らしい演奏でした。


続くデザンクロの《サクソフォン四重奏曲》もアンサンブル・コンテストで頻繁に取り上げられる曲ながら、意外にも「トルヴェール・クヮルテットでこの曲をやるのはかなり久しぶりで、たぶん5年ぶりぐらい」(田中靖人さん)なのだそう。

それでも「練習するうちに、まだまだやれるぞ」と思ったというこの意欲、感覚の新鮮さこそがグループが長続きする秘訣なのかもしれません。

さてアマチュア・プレイヤーが悪戦苦闘するこれら2曲、もう「水も漏らさぬ完璧なアンサンブル」とはこのことか、というほどのパーフェクトな演奏ぶりだったわけですが、ここから羽目を外していくのがトルヴェール流。


最後の《Typsy Tune》は人気作曲家、長生淳がトルヴェール・クヮルテットのために書いた一風……いや十風ぐらい変わった曲です。

 「Typsy」には「ほろ酔いの」とか「酔っぱらいの」という意味があるそうで、この単語に「Zypsy」をかけているのが曲名の由来のようです。

内容については「サラサーテの《ツィゴイネルワイゼン》をやろうとしているのに、
酔っ払っているからどんどん横道にそれて行くというような曲。

最後はなぜか一人だけ《荒城の月》を吹いて……」(彦坂眞一郎さん)と、軽くネタバレを含ませてから、この曲にだけ加わるピアノの小柳美奈子さんを紹介。

その《Typsy Tune》は、おそらく10回ぐらいは聴かないと全貌の分からない、《ツィゴイネルワイゼン》が少しずつ進むうちに色々なジャンルの名曲からの断片がそれこそ「酔っぱらいのように」野放図に参加してきて、その間に手拍子、指パッチン、足踏み、かけ声まで入るという、およそ新宿歌舞伎町の夜のような、しかし楽しいことに間違いない曲でありました。


ほとんど呆気にとられる観客に向けて、口直しとばかりのアンコールは

「トルヴェール・クヮルテットではコンサートの冒頭に演奏することの多い、大好きな曲です」という紹介から

『サウンド・オブ・ミュージック』から〈マイ・フェイヴァリット・シングス(私のお気に入り)〉。

これほどの超絶技巧がちりばめられた〈マイ・フェイヴァリット・シングス〉もないだろう、
という編曲は今年の4月に亡くなった真島俊夫さんの手によるもの。
もしかしたら追悼の意味もあったのでしょうか。

そうでなくとも、全く見事な〈マイ・フェイヴァリット・シングス〉でした。

トルヴェール・クヮルテット Trouvère Quartet 演奏ハイライトMOVIE


トルヴェール・クヮルテット

1987年の結成以来同じメンバーで活動。日本のクラシカル・サックス界を常にリードしてきたサックス・ソリスト集団。92年東京国際音楽コンクール第2位、第5回日本吹奏楽アカデミー賞「演奏部門」受賞。98年にはTV朝日「徹子の部屋」への出演を機にその存在を広く一般にも知られるようになる。2000年にはオランダでの日蘭国交修好400年記念演奏会に招かれ各地で絶賛を浴びた。
2001年発売のCD「マルセル・ミュールに捧ぐ」は、第56回文化庁芸術祭レコード部門で大賞という快挙を遂げた。EMI他から多数CDがリリースされている。最新CDは2014年発売の「With You」(イマジン・ベストコレクション)。
「個性と融合」をコンセプトに、コンサートではサクソフォンのためのクラシカルな作品から、トルヴェールならではのオリジナル編曲までを展開。ボーダレスな活動内容が幅広い層に圧倒的な支持を得続けている。また、その音楽性と驚異的なテクニックによる緊密なアンサンブルが、日本最高峰のサクソフォン・クヮルテットとしての評価を揺るぎないものとしている。
2017年には結成30周年を迎える。世界トップレベルのサクソフォン四重奏団として、今後のますますの活躍が期待されている。

プロフィール

須川展也 Nobuya SUGAWA 〔Soprano Sax〕

東京藝術大学卒業。第51回日本音楽コンクール、第1回日本管打楽器コンクール最高位受賞。02年NHK連続テレビ小説『さくら』テーマ演奏。名だたる作曲家への委嘱曲がSaxの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。89-2010年まで東京佼成ウインドのコンマスを務めた。最新CDは2015年発売の「Blue Rondo」、ヤマハ吹奏楽団との「ヤマハのオト~奏でる匠のオト~」。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、静岡市清水文化会館音楽アドヴァイザー&マリナート・ウインズ音楽監督。東京藝大招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
使用楽器:YAMAHA YSS-875EXG

彦坂眞一郎 Shin-ichiro HIKOSAKA 〔Alto Sax〕

東京藝術大学大学院修了。安宅賞受賞。CBSソニー「ザ・ニューアーティスト・オーディション '88」においてFM東京賞、クリスティン・リード賞受賞。99年東京オペラシティリサイタルシリーズ「B→C」出演。上野学園大学教授。また「裏サックス」メンバーとしても活動中。最近のCDは、08年発売の新井靖志とのデュオによる「6つのカプリス~2本のサクソフォンのための作品集~」、09年発売のソロCD「明日の方へ」(共にマイスター)。
使用楽器:セルマーシリーズⅡGP

新井靖志 Yasushi ARAI 〔Tenor Sax〕

東京コンセルヴァトアール尚美ディプロマ・コース卒業。赤松賞受賞。尚美コンクール管打楽器部門1位、第4回日本管打楽器コンクール2位受賞。2000年にソロCD「ファンタジア」をリリース。また彦坂眞一郎とのデュオによる「6つのカプリス~2本のサクソフォンのための作品集~」(いずれもマイスター)も人気を博している。最新ソロCD「夕べの歌」(フロレスタン)は意欲的な内容で、サクソフォンの新境地を開拓し、高い評価を得ている。現在、TAD Wind Symphonyのコンサートマスター。
使用楽器:ヤナギサワ T-992PGP

田中靖人 Yasuto TANAKA 〔Baritone Sax〕

国立音楽大学卒業、矢田部賞受賞。在学中に第1回日本管打楽器コンクール2位、第4回同コンクール1位受賞。CDは「管楽器ソロ名曲集」(日本コロムビア)の他、「ラプソディ」、「サクソフォビア」(東芝EMI)、「ガーシュイン・カクテル」(佼成出版社)、「モリコーネ・パラダイス」(EMI)をリリース。03年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」受賞。現在、愛知県立芸大講師、昭和音楽大講師、東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスター。
使用楽器:YAMAHA YBS-62Ⅱ

小柳美奈子 Minako Koyanagi 〔Piano〕

東京藝術大学卒業。伴奏のイメージを変えてしまうアンサンブル・ピアニスト。様々なプレイヤーの呼吸の機微を読み取り、それに寄り添うしなやかな感性を数多くの公演、録音で発揮している。吉松隆「サイバーバード協奏曲」の準ソリストとしてフィルハーモニア管弦楽団とも共演。トルヴェール・クヮルテットとのレコーディングは10数枚を超える。トリオ「YaS-375」のメンバー。



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